原因別アナフィラキシー
|食物アレルギー
監修
昭和医科大学 医学部 小児科学講座
教授 今井 孝成 先生
日本人成人の約10人に1人が食物アレルギーの可能性があることが WEB 調査で明らかにされています1)。子どもと同様
に、成人の食物アレルギーの患者さんも年々増加傾向がみられます2)。
成人の食物アレルギーには、成人になってから発症するものと、子どもの時期に発症したものが成人になっても治らず持続するものがあります。成人になってから発症する
場合、小麦、甲殻類(エビ・カニ)、果物や豆乳などの食物が主な原因となっています3)。
一方で乳幼児期に発症した
鶏卵・牛乳・小麦アレルギー患者さんの多くは成長とともに原因となる食物を食べられるようになりますが(耐性獲得と
いいます)4)、それ以外の原因食物によるアレルギーは治らず、成人になっても持ち越す可能性が高いといわれて
います2, 5)。
食物アレルギーの原因となるものにはさまざまなものがあります。
花粉のアレルゲンと果物・野菜のアレルゲンには、その構造が似ているものの組み合わせがあります。
例えばハンノキ科花粉とバラ科果物(リンゴ、サクランボ、モモなど)の果肉のアレルゲンの構造は非常に似通っています。
このため、ハンノキ科花粉症の患者さんの一部に、バラ科果物アレルギーの患者さんがいます。
これは、ハンノキ科花粉症の患者さんが、バラ科
果物を食べたときに、体はハンノキ科花粉を大量に食べていると勘違いすることで発症します。
このような病態を花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)といいます。
PFASには症状の特徴があり、原因食物を食べると速やかに、口や粘膜の違和感や
むくみなどの症状がみられます。まれに全身に症状が出ることもあります。
また食物は加熱すると症状が誘発されにくくなる傾向があります。最近は豆乳による本症の成人患者が増加しています。
代表的な花粉と果物野菜の交差反応
| 原因となる花粉 | 果物・野菜 |
|---|---|
| ハンノキ、 シラカンバ |
バラ科果物(リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、ビワ など)、 ヘーゼルナッツ、 マメ科(大豆、ピーナッツ)、セリ科(ニンジン、セロリ) |
| イネ科、 ブタクサ、 ヨモギなど |
ウリ科(メロン、スイカ、キュウリ)、トマト、オレンジ、 バナナ、アボカド など 幅広い新鮮な果物・野菜 |
| スギ、ヒノキ | バラ科果物、柑橘系果物、ザクロ、イチジク |
厚生労働科学研究班. 食物アレルギーの診療の手引き2023. P5, 2023より引用改変
調理師や食物を扱う仕事の人のうち、扱っている食品を吸い込んだり、繰り返し素手で触れることでアレルギーを起こしやすくなることがあります。
寿司職人や鮮魚店職員の魚類や甲殻類アレルギーや、パティシエやパン職人の小麦アレルギーなどの報告もあります。
化粧品などに含まれる食物由来成分が皮膚や粘膜に繰り返し触れることで、食物アレルギーが起こることがあります。
日本では、2011 年に加水分解コムギを含む「(旧)茶のしずく石鹸」の使用者に小麦アレルギーが発症した事例が社会問題となりました。
その他、赤色化粧品などに含まれるコチニール色素、大豆、オート麦、トウモロコシ、魚や鶏のコラーゲン、ダチョウ卵黄エキスなどが原因成分として知られています。
化粧品を使っているときには症状に気づかず、原因食品を食べた場合には症状が重くなり気づくことが多く注意が必要です。
原因食物を食べた後に一定の運動することでアナフィラキシーが引き起こされる病態であり、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)と呼ばれます。
多くの場合、原因食物を食べた2時間以内の運動により誘発されます。
原因食物は、小麦と甲殻類(エビ・カニ)が多く、最近は果物によるものの報告も増えています。
本症は、風邪(感冒)、睡眠不足や疲労などのストレス、薬物(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)の服用、アルコールの摂取や入浴などでも誘発されることがあります。
参考文献
本サイトに掲載された健康情報は啓発を目的としたものであり医師等のヘルスケアプロバイダーに対する相談に取って代わるものではありません。
患者さんの治療に関しては、個々の特性を考慮し医師等のヘルスケアプロバイダーと相談の上決定すべきものです。