食物アレルギー 患者さん体験記
|特集・メッセージ
患者さん体験記 vol.1
昭和大学 医学部 小児科学講座 教授 今井 孝成 先生
鶏卵と牛乳にアレルギーを持つお子さんのお母さんにお話を聞きました。
誰か私の気持ちをわかって!そんな毎日でした
私には、中学校1年生になる息子がいます。息子が食物アレルギーだとわかったのは、生後6ヵ月の頃のことでした。下痢が3日ほど続いてよくならなかったので、近くの小児科に連れて行きました。なかなか症状は改善しなかったため、血液検査をおこなったところ、「非常に強い食物アレルギー」だと告げられました。食物アレルギーのこともよく知りませんでしたし、牛乳から鶏卵、小麦と、次々と食べてはいけない食べ物を指示され、突き落とされたようなショックで頭の中が真っ白になってしまいました。
アレルギーを引き起こすものをもしも食べてしまったら、重い症状が出て、息子は死んでしまうかもしれないと考えると、不安でたまりませんでしたし、同年齢のお子さんをもつお母さんたちが「こんなものが食べられるようになったよ」と喜ぶ姿を横目に見ながら、味気なさそうな離乳食を食べさせるのはつらくて、毎日がストレスの連続でした。保育園にはアレルギー児をおもちのお母さんもいて、いろいろと相談にのってくれましたが、心のどこかで、食べたら救急車を呼ばなくてはいけないほど深刻な状況の息子をもつ私の気持ちをわかってもらえないのでは、と感じていました。
わかり合える友達に出会い、専門医の存在を知りました
そんな暗く、つらい日々を送っている最中でした。息子と同じぐらい重症の食物アレルギー児をもつお母さんにお会いしたのは。初対面でしたが、「それ、わかる」、「そうだよね」と、長い時間話し込んだのを覚えています。初めて本当に理解してもらえる人と出会えたと、明るい気持ちになりました。そして、食物アレルギーを専門とするお医者さんがいることを伺ったのです。「何かの間違いではないか、いつかは食べられるようになるのでは?」という気持ちを抱いていた私は、もしかしたらというわずかな期待を胸に、専門医を受診することにしました。
最新のエビデンス、数多くの患者さんを診てこられた経験にもとづく専門医の説明はわかりやすく、ストンと納得できました。このとき初めて、息子は重症の食物アレルギーなんだと心の底から理解でき、息子の病気と向き合えるようになったのだと思います。
今までは「卵がダメだから、鶏肉も食べないようにしましょうと」と指導され、それを守ってきました。でも、そういう理由で鶏肉が食べられない人はほとんどいないからと、すぐに食物経口負荷試験をおこなっていただき、鶏肉が食べられることがわかったんです。食べられるものがひとつ増えたことも嬉しかったのですが、何よりも「これもダメ、あれもダメ」から、「これは大丈夫かも」と可能性を探して広げてくれることをとても嬉しく感じました。信頼できる専門医に出会って、適切な診断と治療、生活指導を受けたことで、息子の病気と正面から向き合えるようになり、私と息子の人生は大きく変わりました。それからは、私自身も講演会などに積極的に参加し、最新の情報を入手するようにしました。勘違いしていたこともずいぶんあったなぁと思います。
歩み寄りと経験で学校との信頼関係が築けました
小学校では、入学前の面談で、食物アレルギー児への給食対応は難しいといわれました。でも、できる限りみんなと同じ学校生活をさせてあげたかったし、食べられるものもあるのに、門前払いをされたように感じて息子が学校に失望してしまうのではないかと心配でした。そこで、実際に給食室を見せてもらったりしながら、対応してもらえそうなこと、無理そうなことを確認して、栄養士さんや先生方と何度も話し合いました。そして、お互いが少しずつ歩み寄ることで、可能な範囲で給食を出していただけることになりました。小学校6年間でいっしょに積み重ねてきた経験により、学校との信頼関係を築くことができ、修学旅行などのイベントにもスムーズに対応いただけました。
自立と、食物アレルギーだからといって諦めない生活を送る手助けをしていきたい
息子が小学校に入学してからは、万が一、外出先でアナフィラキシーが起こったときにそなえて、アドレナリン自己注射薬をランドセルの中に入れてもち歩くことにしました。小学校高学年、中学生になり、友達と釣りや登山に行ったり、部活動でサッカーをはじめたりと、活動範囲が広くなってきましたが、アドレナリン自己注射薬は常に携帯しますし、食べられるものを持参したり、外出先ではリスクのある食事をしないようにするなど、自分自身で生活をコントロールするようになってきました。
今後も人生のいろいろな場面で悩むこともあると思いますが、専門医に相談しながら、息子の自立を手助けしていきたいと考えています。今、食物アレルギーのお子さんをおもちで悩んでいるお母さんも、1日も早く、専門医や講演会などから適切なアドバイスや情報を得て、納得のできる治療と食物アレルギーだからといって諦めることのない充実した生活を手に入れてほしいと願っています。
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専門医の先生から
昭和大学 医学部 小児科学講座 教授 今井 孝成 先生
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かつて食物アレルギーの診療はわからないことが多く、原因食物を厳格にかつ広めに除去して、アレルギー症状を起こさないように管理していました。このため今から思えば不必要な除去が多かったのが事実です。しかし今は食物負荷試験を通して必要最小限の除去をしながら、早期に食べられるようになることを目指すようになっています。また学校や保育所における対応も劇的に変化しています。保護者が正しい知識をもって、標準治療を受ける努力を惜しまないで下さい。