食物アレルギー 患者さん体験記
|特集・メッセージ

患者さん体験記 vol.2

昭和大学 医学部 小児科学講座 教授 今井 孝成 先生

乳・鶏卵・小麦など複数のアレルギーを持つ中学生の女の子について、お母さんにお話を聞きました。

「あなたのままでいい」とたくさん伝えてあげたいんです

最近、娘に意識してかけている言葉があります。「アレルギーがあったって、あなたはあなたのままでいい」「食べること以外は何でもできるんだよ」、そんな前向きな言葉です。おそらくアレルギーとは一生つきあっていくだろう状況で、まずは親が、アレルギーはあるけど、でも他にいいところもあなたにしかできないこともいっぱいあるよ、とたくさん伝えてあげたいと思っています。食物アレルギーを持つお子さんのお母さんたちには、小さいうちからお子さんにこの言葉をたくさんかけてあげてほしいです。ただ、今でこそこんなふうに考えられるようになりましたが、以前はそんな言葉をかけてあげることは、とてもできませんでした。

娘が食物アレルギーだとわかったのは、生後4ヵ月ごろです。粉ミルクを与えたら、突然、体中に大きなじんましんが出てしまい、あわてて近くの大学病院の救急外来につれて行きました。たまたま、その病院には食物アレルギーの専門医がいらっしゃって、詳しく検査をしたところ、娘には食物アレルギーがあり、しかもかなり重症だと診断されたのです。何を食べさせてもアレルギー症状が出るのではないかと、不安な日々が続きました。

娘のことを最優先で考えている点では一緒、この一言に気づかされました

小学校では、授業や給食、行事など可能な限り、みんなと同じ経験をさせてあげたいと考えていました。しかし、当時、その学校でアレルギー児の経験がなく、まだガイドラインもありませんでしたから、最初、学校側の反応は腫れものに触るような感じでした。入学前に何度も話し合いをしましたが、対応できないと言われたこともたくさんありました。「もっと対応してほしい、どうして対応してくれないの」という不満は大きくなる一方でした。

そうした不満を専門医に相談したときのことです。先生は「校長先生も、養護の先生も、親も、食物アレルギーのある子どもたちのことを最優先で考えて行動している点では一緒なんですよ」と言われたのです。ハッとしました。学校は私とは立場は違うけど、娘のことを真剣に考えてくれているんだと気がつきました。それから、学校との距離がぐっと縮まったように思います。長い6年間のことを入学前に性急に決めるのは、子どもにとってもリスクがあるなと考えるようになり、子どもの命を守る、それを最優先にして話し合いを重ねながら、お互いに折り合いのつくところを探していったんです。

私がまずはきちんと理解しないと、娘にも伝わらないと思いました

私の家庭では、娘に合わせて家族全員がアレルギー児用の食事に揃えることはしませんでした。娘もいつかは自分が他の子と同じようには食べられないことを受け入れてなくてはならないので、食べられるもの、食べられないものを意識的に教えてきました。加えて、娘からの食物アレルギーについての問いかけには、何度でもていねいに説明してきました。娘にわかりやすく伝えるためには、まず私自身がアレルギーを正しく理解する必要があると、さらに知識を得ることから始めました。

娘が小学校4年生のころ、自由研究で食物アレルギーを取り上げて自分の言葉でまとめているのを見て、この子なりに自分の体のことを知り、きちんと理解しているんだと、すごく嬉しく思いました。

自分の命を自分で守るため、努力を続けています

旅行先で、アレルギーに対応したシャーベットを食べたときに、アナフィラキシーを起こしてしまったことがありました。シャーベットをすくうスプーンが水洗いのみで他のアイスクリームと共有されていることに気づかず、牛乳成分がわずかに含まれていたのです。十分に気をつけていても、防ぎきれないリスクがあることを認識させられたとともに、こんなちょっとの量でも救急車が必要になってしまうことに、今後、普通に生活できるのだろうかと不安になる出来事でした。でもこの出来事を教訓に娘と話し合い、経口免疫療法を受け続けています。まだ研究段階の治療方法で、アナフィラキシーを起こすかもしれない。でも娘は13歳になった今でも、少しのアレルゲンではアナフィラキシーを起こさない体を目指して毎日、努力を続けています。これが娘の、命を守るための選択なのだと思います。

子どもは思っている以上にいろいろなことがわかっていますし、自分で成長する力をもっています。成長する過程で、悲しい思いをすることはあるかもしれません。そういうことも含めて子どもの気持ちを受け止めながら、子どもがわかる言葉でしっかりと説明もしてあげることが、とても大切なことだと実感しています。お子さんが「食べられないものがあっても、私は私でいいのだ」と自分を肯定して受け入れながら、うまくアレルギーとつき合っていけるように、食物アレルギー児をお持ちのご家族の方にはサポートしていってほしいです。

今井 孝成 先生

専門医の先生から

昭和大学 医学部 小児科学講座 教授 今井 孝成 先生

食物アレルギーは病気です。しかも人間が生きていく上で必須である“食”に大きな制限が加わる病です。患児と保護者にのしかかるストレスはおもんばかるにあまりあります。しかしそれは患児の全てにおいてマイナスに働くわけではありません。こどもたちは保護者の献身的な愛に育まれ、社会の慈愛の助けを得て、着実に大人になっていくでしょう。そして必ずや自分が食物アレルギーであることをプラスに転じ、社会で一人前に生活し、立派に貢献していくでしょう。