特集・メッセージ
NHKエデュケーショナル
オンラインフォーラム
小児の食物アレルギー 新常識
Part4食事とスキンケアについて正しく知ろう!
いつから始める? 離乳食
久田 小児の食物アレルギーの場合、心配なのが離乳食の進め方です。佐藤さん、いかがでしょうか。
佐藤 ご自身がアレルギー体質の場合、お子さんの離乳食の開始を遅らせたほうがいいのではないかと考える方や、気になる食材だけ遅らせるという方もいらっしゃると思います。しかし今は、通常どおり始めることが適切だといわれています。栄養素が足りないと成長障害を起こしてしまうこともありますので、バランス良く食べるのが一番いいということです。
久田 ただアレルギーのリスクがあると、食べさせていいのかどうか不安に思う方も多いのではないでしょうか。
佐藤 まず、お子さんにアレルギーがあるかどうかわからない状況では、過度に心配する必要はありません。ただ最近のさまざまな研究によると、赤ちゃんの頃に湿疹など皮膚症状がある場合、食物アレルギーを発症するリスクが高い5)ことがわかってきています。その場合には、摂取の時期を医師と相談して決めるのがいいでしょう。そうでなければ、生後5〜6か月の頃から通常どおり始めてみてください。
世界的にも、離乳の早期の時点からアレルギーになりやすい食材を少しずつ食べさせていくと、食物アレルギーになりにくくなる
6)ことが報告されています。欧米ではピーナッツのアレルギーが非常に多いのですが、早い時期からピーナッツを摂取して予防ができた7)という報告があがっています。また日本においては卵アレルギーに関して、生後6か月からある一定の量を摂取するほうが、発症率が低くなる8)こともわかっています。もちろんそれがすべての人に当てはまるわけではありませんが、基本的には通常どおりに離乳食を始めると良いと思っていただければいいかと思います。
久田 通常どおりというのは、具体的にはどのようにすればいいでしょうか。
佐藤 日本では離乳食をスタートするにあたって、厚生労働省から「授乳・離乳の支援ガイド(http://w0bhayabup001/cmdb/#)」が公表されています。基本的にはそのガイドに従ってください。卵を例にとると、5〜6か月ごろ、固ゆでの卵黄からスタートします。お子さんの食べられる量に応じて加減しましょう。一般的には1さじ*)くらいからといわれています。月齢が進むにしたがって白身も混ぜていき、1歳6か月くらいを目途に、卵を半分くらい食べられるようになっていれば十分です。乳製品についても、5〜6か月のころに1さじ程度から始めてください。*離乳食用のスプーンで1さじ
注意点としては、一度にたくさんの量を食べさせないことです。万が一アレルギーがあった場合、急に症状が強く出ることがありますので、体調がいいときに少量ずつ与えましょう。また初めて食べる食材を重ねないことも大切です。1種類ずつ食べさせるようにしてください。またアレルギー症状が出た場合に迅速に対応できるよう、医療機関の診療時間にあたる平日の日中に摂取ができるといいと思います。
食事で気をつけたいこと
久田 一度アレルギー症状を経験すると、お子さんがその食品そのものを嫌いになってしまうというケースもあるようですね。
今井 触れても症状が出ますし、食べても口の粘膜や、舌などに触れますので、そこで多くのお子さんは違和感を覚えて食べなくなってしまうケースは多いように思います。
山下 自我が芽生えると、アレルギー発症のトラウマから、食べることに抵抗が出てしまうんですね。私の子どもも経口負荷試験のときに嘔吐したことがトラウマになって、家で食べてもいいよとアレルギー食材が解除になっても、なかなか食べ進めることができず苦労しました。ただ栄養面を考えると食べられる量は食べていったほうがいいので、皆さん献立には苦労されているのではないかと思います。
久田 山下さんの場合は、実際にどうされていたのでしょう。
山下 卵の場合は、クッキーにしたりホットケーキにしたりなど、卵の食感や味がわからないように他の食材に混ぜて食べさせていました。乳製品もアレルギーがあったのですが、食べさせないとカルシウム不足になりやすいと聞いたので、不足分は他の食材で補いつつ、工夫していました。食べてほしいけど食べてくれないというのは苦しいですよね。料理をする人のストレスを減らしていくことも、日々を乗り越えていくために大切なことだと思います。
久田 家庭で料理を作るだけでなく、買ってきたり、外食の機会もあると思うのですが、こうした場合はどんなことに気を付ければいいでしょう。
山下 コンビニやスーパーで加工食品を買う場合には、パッケージなどにアレルギー表示が義務化されているものがあります。特定原材料はアレルギー発症数が多かったり、重症化しやすかったりするため、必ず表示しなければいけないことになっています。ただし一括表示や表示の省略があるので注意が必要です。このほかにも、くるみやごま、大豆などは特定原材料に準ずる21品目とされ、表示義務はなく、できる限り表示することが推奨されています。
〈アレルギー表示〉
久田 レストランなどの外食ではどうでしょうか。
山下 レストランでの外食、またデリバリーなどの中食では、特定原材料などの表示制度そのものがありません。お店によっては掲示してあったり、ホームページに紹介されていたりしますが、厳密なものではないので、特に重症なお子さんには細心の注意を払う必要があります。
食物アレルギー スキンケアで予防を
久田 食べること以外に気をつける点はありますか。
今井 食物アレルギーの症状は「食べる」ことだけでなく「触れる」ことでも出てきます。原因食物を食べていなくても、触れたり吸い込んだりすることで症状が出れば、それは食物アレルギーといえます。じつを言うと、「食べる」より「触れる」ほうが反応が出やすいのです。食べたとき、口の周りが赤くなったり、首から上に発疹が出たりするお子さんもいらっしゃると思います。それらは、もしかしたら食べているときに触れたことによって出たものかもしれません。とはいえ、それによってすぐに食べるのを中止する必要はありません。アレルギーを引き起こす物質は皮膚からも入ることを十分に理解した上で、注意しながら食べることが大切です。そのほうがより確実に治っていきます。
また、予防の観点からはスキンケアも大切です。例えば、イギリスは赤ちゃんにスキンケアとしてピーナッツオイルを塗る習慣があるのですが、ピーナッツオイルを塗って乳児期を過ごした赤ちゃんと、それ以外のスキンケアをした赤ちゃんを比較すると、ピーナッツオイルを塗っていた患者さんのほうがピーナッツアレルギーを発症しやすいのです。また塗っていたお子さんの中に、湿疹が目立った患者さんと目立たない患者さんでは、目立った患者さんのほうが、よりピーナッツアレルギーの発症頻度が高い9)という研究成果があります。このデータをきっかけに、皮膚のケアというのも非常に重要だといわれるようになりました。
皮膚は免疫の最前線で、体に入ってきたものをできる限り効率的に排除しようとする役割があります。しかし荒れた肌は、健康な肌に比べると隙間ができていて、そこから異物が体の中に入ってきやすい状態です。こうした異物が皮膚から入ってきたとき、次はもっと効率的に排除しようと、アレルギー体質がある人はIgE抗体が作られるようになります。したがって、初めて食べたものであっても、すでにIgE抗体ができているのでアレルギー症状が出てしまうのです。ぜひ乳児期のうちからスキンケアをして、皮膚のバリア機能を鍛えてほしいと思います。外から異物が入ってこないように、アレルギー体質を悪化させないためにも大切です。
久田 それでは、どのようにスキンケアをおこなえばいいのか教えていただけますか。
山下 はい。食事、外出時、入浴時、寝る前のスキンケアをそれぞれお伝えしたいと思います。
〈食事〉
口の周りに肌荒れがあったりすると、そこから異物が入ってさらに発疹がひどくなることがありますので、ワセリンを塗り、肌を保護しましょう。指の腹を使ってやさしくのばしてください。食事のあとは、食材が口の周りについたままになってしまうことが多いので取ってあげることが大事です。水で洗い流すのがベストですが、外出先などでは難しいので、ティッシュやコットンでやさしく押さえ拭きをしてあげてください。
〈外出時〉
日焼け止めや虫除けスプレーをしっかりつけてあげましょう。日焼けしたり虫に刺されたりすると、お子さんはどうしても皮膚を掻きむしってしまいます。それによって肌のバリア機能が低下してしまいますので、お出かけ前のケアが大事です。
〈入浴時〉
液体や固形の石鹸を使っている方も多いと思いますが、最近では泡で出てくる石鹸もあります。今回は、液体で出てくる石鹸の泡立て方法をご紹介します。
まずはビニール袋に少量のお湯と液体の石鹸を入れます。空気を含ませるようにして手でまとめた後、よく振ってください。きめ細かい泡を使いましょう。手ですくって、逆さにしても落ちないくらいが目安です。
また体を塗らすことでしっかり汚れを落とすことができますので、湯船につかるか、シャワーを浴びた後に先ほどの泡を手にたっぷり取って、包み込むように洗ってあげてください。しわになっている箇所なども伸ばしながら丁寧におこないましょう。洗い残しがあると、石鹸の成分が肌の刺激になってしまいます。耳の後ろや脇などは泡が残りやすいので、洗い残しがないようたっぷりのお湯で流しましょう。
入浴後は、ゴシゴシ拭いてしまうと皮膚への刺激になりますので、タオルを体に巻いて包み込むようにして押さえ拭きをしてあげてください。それだけでも水分は取れますし、体への刺激を抑えてあげることができます。
〈寝る前〉
軟膏を塗りましょう。皮膚を保湿することでバリア機能が高まります。量としては、人差し指の先から第一関節くらいまでの長さをチューブから出してください。それを、両方の手のひらで薄くのばし、体に塗っていきます。皮膚にテカりが出て、量が多いと感じるかもしれませんが、たっぷり塗ることで保湿ができます。
参考文献
5) Tetsuo Shoda, et al. Timing of eczema onset and risk of food
allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. Journal
of Dermatological Science. 2016 ;84(2), 144-148.
6) Perkin MR, et al. Randomized Trial of Introduction of
Allergenic Foods in Breast-Fed Infants. N Engl J Med. 2016 ;
5;374(18):1733-43
7) Du Toit G, et al. Randomized trial of peanut consumption in
infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015 ; 26;372(9):803-13.
8) Natsume O, et al. Two-step egg introduction for prevention
of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind,
placebo-controlled trial. Lancet. 2017 ; 21;389(10066):276-286.
9) Gideon Lack, M.B., et al. Factors Associated with the
Development of Peanut Allergy in Childhood. N Engl J Med . 2003; 348:977-985